SLO / SLI / SLA

エラーバジェットの考え方を学び、信頼性目標の設計を実践する

よくあるシナリオ:「どこまで頑張ればいいの?」問題

SaaSクライアントで開発チームと運用チームが対立。開発側は「なぜいつもリリースを止めるのか」、運用側は「なぜいつも急リリースして障害を起こすのか」と平行線。根本原因は「いつ・どこまで安定していればOKか」の合意がないこと。

よくある課題
  • 「信頼性が高い」の定義が人によって違う
  • リリースのたびに開発vs運用の対立が起きる
  • 障害報告が「先月2回ありました」で終わる
  • 際限ないオンコールでエンジニアが疲弊

SLI → SLO → SLA の関係

SLI / SLO / SLA の関係

SLI
Service Level Indicator

実際に計測する指標

成功リクエスト数
─────────────
総リクエスト数
例: 可用性 99.87%
→
SLO
Service Level Objective

チームが設定する目標

目標: 99.9%
誤差バジェット: 0.1%
= 月 43.8 分のダウン
内部の信頼性目標
→
SLA
Service Level Agreement

顧客との契約・約束

契約: 99.5%
違反時: 返金・ペナルティ
外部の法的拘束力
ポイント: SLO は SLA より厳しく設定する(SLO 99.9% → SLA 99.5%)。バッファがあることで、SLA 違反を未然に防げる。

核心概念を押さえる

SLIたとえるなら「体重計の数値」

実際に計測するサービスの指標。ユーザーが直接体験できるもの(可用性・レイテンシ・エラー率)を選ぶ。

例:成功リクエスト数 ÷ 全リクエスト数 = 99.87%

SLOたとえるなら「目標体重」

チームが内部で設定する信頼性目標。100%を設定してはいけない——失敗の余地(エラーバジェット)がゼロになる。

例:月次可用性 99.9% 目標 = 月43.2分のダウンタイムまで許容

SLAたとえるなら「健康診断書」

顧客との法的な契約値。SLOより低く設定し、SLO違反時に社内で検知・対処できるバッファを持つ。

例:SLO 99.9% に対しSLA 99.5% を顧客に約束 → バッファ0.4%

エラーバジェットたとえるなら「失敗の小遣い」

SLOから逆算した「許容できる失敗の量」。これが残っている間は積極的にリリースし、枯渇したら安定化を優先。

例:SLO 99.9% → 月43.2分がバジェット。今月20分消費→残り23.2分

バーンレートたとえるなら「財布の減り具合」

エラーバジェットの消費速度。バーンレート14倍=1時間でバジェット枯渇。これで緊急対応の判断基準を持てる。

例:バーンレート10x → このペースが続くと10倍速でバジェットが尽きる

エラーバジェットポリシーたとえるなら「財布のルール」

バジェット残量に応じてリリース可否を決めるルール。開発と運用が客観的な数値で合意できる仕組み。

例:バジェット50%以上→自由にリリース。10%未満→新機能凍結、信頼性改善を優先

エラーバジェットの考え方

65%残りバジェット
残りバジェット 65%
新機能開発・実験に使える余裕
消費済み 35%
今月発生したダウンタイムが消費
バジェット枯渇したら?
→ 新機能リリースを一時停止
→ 信頼性改善に全力を注ぐ

AI で SRE の仕事はどう変わるか

これまで人がしていた作業
  • SLO値を経験則で設定(根拠があいまい)
  • エラーバジェット計算をスプレッドシートで手動
  • SLA違反リスクを定性的に評価
  • 四半期ごとの手動レポート作成
AI が担う作業
  • 過去トラフィックデータからSLO推奨値を自動算出(Nobl9 AI)
  • バーンレートを予測し「このままだと〇時間後に枯渇」と警告(Datadog SLO Analytics)
  • SLA違反リスクをリアルタイムスコアリング(Google Cloud Error Budget)
  • 月次信頼性レポートを自動生成(PagerDuty Analytics)
人に残る役割
  • ビジネス優先度に基づくSLO目標の最終決定
  • ステークホルダーとのSLA交渉・合意形成
  • エラーバジェットポリシーの組織設計
  • AI推奨SLOの妥当性レビュー

主なツール:Nobl9、Datadog SLO Analytics、Google Cloud SLO API、Chronosphere、Grafana SLO

この先の見通し:AIが自動的にSLOの最適値を学習・提案し、エラーバジェット枯渇をリアルタイム予測する時代へ。2027年には「SLO設定はAIが初期提案、人間が承認」という形式が標準化する見込み。SREの役割はSLO設計の哲学者・調整役にシフト。

導入による効果の目安(業界の一般的な傾向)

SLA違反削減
-40%
契約違反のリスク低減
開発vs運用の摩擦
-60%
客観的指標による合意形成
リリース頻度向上
+30%
バジェット余裕時の積極展開
優先度判断
明確化
数値ベースの意思決定